TRAFFICS 加賀啓伺 氏

フィアット500のTWINAIRエンジン搭載車をベースに「G-Tech JAPAN」がチューニングした日本限定モデル、その名も「G-Tech RS110」についに乗ることができた。
おさらいになるけれど、「G-Tech」というのはドイツ南西部のシュテッテンに本拠地を置くチューナーズブランド。ポルシェをベースにしたコンプリートカーで有名な、あの「RUF」でチューナーとしての腕を磨き、その後、フェラーリやマセラティのチューニングで名を馳せている「Novitec」の前身となった会社を共同経営した経験を持つHelmut Giessl(ヘルムート・ギースル)氏が2001年に立ち上げたブランドだ。
そんな「G-Tech」の日本総輸入元である「G-Tech JAPAN」が完成させた「RS110」の一番の特徴は、ブースト圧、燃料噴射時間、各種マップデータをリセッティングすることによって最高出力が110psに、最大トルクが20.1kg-mにそれぞれアップされている点。
ノーマルの85psに対して25psのアップというのは、500psが525psになるのとか525psが550psになるのとは全くワケが違う。また、それ以上に特筆したいのがトルクだ。ノーマルでは14,8kg-mのトルクが5kg-mほどもアップされている。特にトルクアップは乗りやすさに繋がるし、結果的に速く走ることができる。
いつものように、ウォームアップを兼ねてウイングオートから最寄りのインターチェンジまでをゆっくりと走る。パワー&トルクアップの効果は乗った瞬間にすぐに、そしてはっきりと体感できた。ノーマルでは静か過ぎるエキゾーストノートが「G-Tech」の左側2本出しマフラーによって、より2気筒らしさを感じさせるものに変わっている。これがなかなか気持ち良く、信号で止まるたびにブリッピングしてしまう。
ディバーターアダプターが装着されているため、アクセルを抜くたびに「プシューッ」というサウンドが鳴り響くのもその気にさせられる。また、「スプリントブースター」という電気系のパーツによってスタート時のアクセルのツキが良くなっていたのも気に入った。
同じくTWINAIRエンジンを積む「Panda 4×4」に試乗させていただいた際、「TWINAIRは止まった状態でアクセルを踏んでもエンジン回転が思ったように付いてこない」と書かせていただいた。ノーマルのTWINAIRエンジンは低負荷時のアクセルのツキがイマイチなのだ。それが「スプリントブースター」が装着された今回の「RS110」では、「やっぱこうでしょ!?」ぐらいのアクセルのツキになっていた。
それにしても、これだけエンジンが楽しいと積極的にシフトアップ&ダウンを繰り返し、美味しいところを味わいたくなる。ノーマルのTWINAIRの場合、美味しい回転域は3,500回転ほどから5,500回転まで。その印象は「RS110」でも変わらないけれど、全体的にトルクが底上げされており、特に4,000回転から5,000回転の間が顕著。その回転域のエキゾーストノートはさらに気持ちを高ぶらせてくれる。
「G-Tech」のショートストローククイックシフターに交換されているため、シフトの節度感もたっぷり。ノーマルのシフトは正直どこに入っているのか分からないほど節度感がないけれど、こいつはそれがはっきりしている。
ノーマルのそういった欠けている部分も含めて、「こいつはかわいい!」となるワケだけれど、さすがにこのクイックシフターの節度感を体験してしまうと、「ノーマルには戻れないかも!?」というのがこのクイックシフターを経験した後の感想だ。
高速道路に乗り、110ps仕様のTWINAIRをブン回す。ウイングオートを出てすぐに2速、3速が明らかに速いのが分かっていたけれど、4速や5速に入れてからの加速も必要十分。3,500回転を越えていれば十分な加速が得られる。
KONIのショックに「G-Tech」のスプリングを組み合わせ、車高が30mm落とされた足回りも「さすがウイングオート」と言える内容だった。ホイールは17インチで、タイヤはファルケンZIEX ZE502。「これらのマッチングはどうだろう!?」と最初は考えていたのだけれど、これがかなり良かった。僕のドライビングスタイルでは若干アンダー傾向だったけれど、この方が安心感を持って走れそうだ。
アップしたエンジンのポテンシャルも含め、ノーマルでもあれだけ楽しかったフィアット500 TWINAIRの楽しさが1.5倍ぐらいに増幅された印象だった。
「RS110」の車両本体価格は、500S TWINAIR、500 TWINAIR LOUNGEのどちらをベースにしても 220万円~。正規輸入車は500S TWINAIRが225万円、500 TWINAIR LOUNGEが250万円。僕なら正規輸入車より間違いなく「RS110」を選ぶ。
ところで、街中で見掛けるフィアット500やアバルト500は40代ぐらいかそれ以上の男性が乗っている頻度が意外に高い。おじさんが乗っても似合う数少ないコンパクトカーなのだ。
とはいえ、かわいらしいだけの500では、オヤジには少々物足りないのもまた事実。「RS110」のように少し自己主張を加えてやると、500はさらに輝く。特にTWINAIRエンジン搭載車は欠けた部分があるし、クセもある。でも、そういった部分をドライバーが補いながら走ったり、それを補うべく手を加えたりするのがこのクルマを楽しむコツであり、楽しい部分なのだ。素材が良いことは間違いない。なにしろ底辺はフィアット500 1.2 POPの69psからアバルト500の135psや595の160ps、そしてトリブート・フェラーリの180psまであるモデルなのだ。
さらに望むなら、「G-Tech」のコンプリートカーである「EVO-R 224」や「SportSter GT」といった224psを発生する激辛モデルまで手に入る。そういったパワーをいとも簡単に受け入れる懐の深さがこのシャシーにはあるのだ。
フィアット500というモデルもそうだし、その中のひとつのグレードであるTWINAIRエンジン搭載車を見てもそうなのだが、こういった素材の良さというのはイタリア料理に通ずる部分があると感じた。
イタリアは海に囲まれており、山も近いから、海の幸も山の幸も新鮮なものが手に入る。それらはそのまま食べても美味しいし、手を加えればさらに美味しくなる。
TWINAIRは水揚げされたばかりの海の幸、もしくは採られたばかりの山の幸のようなものなのだ。素材自体の美味しさももちろんあるけれど、味付け次第でどのようにでも化けるのだ。